※映画『シャイニング』のネタバレ解説の記事になります。まだ未視聴の方はご注意ください。
- 1980年公開のモダンホラーの傑作!
- スタンリー・キューブリック監督が手掛けた映画史に残る名シーンの数々
- 主演ジャック・ニコルソンの狂気に満ちた演技は必見
映画『シャイニング』といえば80年代の傑作ホラーと称されており、映画史に残る数々の名シーンと多くの謎を残す作品として20年たった現在でも反響が止まない作品となっている。今作の舞台であるオーバールックホテルについて、映画『レディプレイヤー1』(2018年)にも登場したことで再注目されており、熱心なファンからも反響が凄かったとか…そんな本作『シャイニング』ですが、スティーヴン・キング原作の同名小説と異なる部分が多数あり、この映画には納得していない。そもそも原作版『シャイニング』は異能バトル要素があるものの、映画版では完全ホラー映画に仕立て上げられたのだ。というわけで、今回は映画版『シャイニング』のネタバレ解説をしていきます。
(多数の解釈・解説をしていきますが、浅いところ・間違っているところも多々あると思いますがご容赦ください。)
映画『シャイニング』のあらすじをおさらい
コロラド州、ロッキー山脈の山中にあるオーバールック・ホテル。小説家志望でありアルコール依存症を患っているジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)は、豪雪のため冬の期間だけ閉鎖されるホテルへ新しい管理人として妻のウェンディ(シェリー・デュヴァル)と息子のダニー(ダニー・ロイド)でやってくる。そこはかつて精神異常をきたした管理人チャールズ・グレイディが孤独に心を蝕まれ、家族を惨殺した挙句、自殺するという痛ましい事件が起きていた。それを知っても尚、ジャックは気に留めず家族と共に住むことを決めたのだ。オーバールック・ホテルに到着したジャックらは最初は穏やかな生活を送れていた。そんな中、超能力を持つダニーだけがホテルに違和感を感じ始める。そんな矢先、一家に降り注ぐかつてない恐怖が…。
映画『シャイニング』は原作とは大きく改変されていた?
キューブリック監督は映画を製作するにあたり、出来上がった映画は原作を大きく改変した独自のストーリー展開となっていた。原作者のスティーヴン・キングは今に至るまで本作に対して批判を繰り返しており、かなり辛辣なコメントを残している。
英BBCのインタビューで…
「非常に冷たい映画。人々が私の小説に感じる要素の1つに暖かさがあると思っている(読者に対して物語を共有してほしいと訴えかける感じ)。だが、キューブリックの『シャイニング』にはあたかも蟻塚のなかの蟻を観察するかのように登場人物を見ている冷たさを感じる」と話している。
原作では狂気や邪悪な何かが原因がホテルそのものにあるとされており、ホテルが原因でジャックが狂気したと家族が思っているが、映画版では「グレディという元管理人が彼の狂気を高めたのではないか?」とされている。
だが、ダニーの持つ超能力”シャイニング”については原作はかなり重要なものとして描かれているのに対し、映画版ではディック・ハロラン(スキャットマン・クローザース)が”シャイニング”の能力に触れるだけで発揮されることもあまりない。加えて同じ能力を持つディック・ハロランが”シャイニング”について大きく取り上げられず、ジャックにより殺されてしまったのだ。それもあってキングが映画版を嫌う理由の一つであると考えられるのではないだろうか?
そしてキングがキューブリック監督を嫌っていることはお分かり頂けたかと思うが、キューブリックの死後も批判は続いており、本作に関して「思い違いだらけで腹正しい。期待外れの映画だ」と酷評している。それもあってキング自身が総指揮としたミニシリーズ『シャイニング』(1997年)を製作し、全編4時間半と原作に忠実なストーリーで製作。だが、映像美や斬新な発想はキューブリックの方が優っており、物語性を取るのならばキング版。ホラーを求めているのであればキューブリック版をオススメしたい。
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映画『シャイニング』に散りばめられた要素とは?|トリビアも紹介!
『シャイニング』の舞台:オーバールックホテル
出典:https://stephenking.fandom.com/wiki/Timberline_Lodge
映画『シャイニング』の舞台はコロラド州ロッキー山上にある架空のホテル。実は映画のためのセットだということをご存知だろうか?外観のモデルはアメリカのオレゴン州フット山に建てられ、山肌と同じグレーの外観により山に溶け込むようにたたずんでいる。1937年にモデルは完成し、現在は1泊15,000~20,000円程度で宿泊できる。ちなみにルーズベルト大統領のテラスからのスピーチはここで行われた。また、原作でのオーバールック・ホテルはコロラドに位置しており、これはスティーヴン・キングが1973年に滞在したコロラド州エステスパークに位置するスタンレー・ホテルが影響していると思われる。
出典:https://4travel.jp/travelogue/11364140
内観はカリフォルニア州ヨセミテ国立公園内に位置するマジェスティック・ヨセミテ・ホテルがモデルとなっている。このホテルはAppleの創設者スティーブ・ジョブズの結婚式、ジョン・F・ケネディ、エリザベス2世、ウィストン・チャーチルなどが宿泊した素晴らしいホテルである。宿泊料金は1泊40,000~70,000円と格調高いホテルとなっている。
ダニーの持つ超能力”シャイニング”
ダニー・トランスとディック・ハロランが持つ”チャイニング”と呼ばれる超能力。この能力について劇中では語られることはあまりなく、言葉を介さなくてもコミュニケーションを取れたり心の中を読めることがわかっている。そして”シャイニング”にはおぼろげな未来と過去を見ることができる。また、ハロランの祖母も”シャイニング”を持っており、”シャイニング(輝き)”と名付けたのも彼女である。
鏡で反転した”あちら側”の世界
映画『シャイニング』は鏡のシーンが印象的です。1つ目は自宅の洗面所の鏡に向かったダニーがトニーという架空の友人とコミュニケーションを取るシーン。そしてジャックとグレディがバーのトイレで出会うシーン。237号室の全裸の女性のシーン。ホテルのバーでロイドというバーテンダーが現れるシーンがあります。
ダニーの架空の友人トニー
ダニーが自宅の洗面所の鏡に向かってトニーという会話の友人と会話をするシーンで鏡の方にクローズアップしていき最終的にダニーだけが鏡に移る。このシーンで鏡の中に”あちら側”の世界があることを表している。
237号室の全裸の女性
この時、ジャックの前に現れた絶世の美女。だが、鏡に映し出されたのは腐敗した年配の女性。これはジャックを”あちら側”に取り込もうとしたシーンなのだ。そう考えると、腐敗した年配女性が”こちら側”。絶世の美女が”あちら側”。このシーンで世界が逆転していることがわかる。これはジャックが”あちら側”の住人になりつつあることを表しているのだ。
原作ではジャックを誘惑した女性が詳しく描かれており、名はマッセイ夫人。彼女は若く美しい女性でジャックの前に現れたが、実はジャックのように若い男を誘惑したが逃げられてしまったことがあり、睡眠薬を大量摂取してバスタブで自殺した。その姿が腐敗した年配女性であり”こちら側”の姿である。
グレディとジャックがバーのトイレで出会うシーン
ジャックがグレディとバーのトイレで会話をするシーン。このグレディの姓は、かつて精神異常をきたした管理人チャールズ・グレイディと同じものであり、この時鏡にグレディが写っていたかどうか定かではないが、”あちら側の世界”にジャックが飲み込まれたと予想される。これが絶妙なカメラワークによりグレディがどちらの世界の住人なのか確認できないのだ。
ダニーが書いた“REDRUM”
ダニーが口紅で書いた“REDRUM”は鏡の世界だと“MURDER(殺人)”とウェンディの身に危険が迫っていることを知らせたシーンもあちらの世界を知らせるものだった。これは完全に”あちら側”に侵食され、それまで”こちら側”しか認知していなかったウェンディも邪悪なホテルを理解する。
ダニーを誘う2人の少女
この2人の少女は絵のようにダニーの前に姿を現すが、ダニーを一切傷付けず、狂気に満ちた”あっち側”の世界に引き摺り込もうとしている。そんな彼女らは手を繋いでじっとこちらを見ているだけなのに恐怖心を呼び起こされる。これはシンメトリーな構図にシンメトリーな少女が配置されているためである。
左右対称なシンメトリーな構図にこだわったカット
出典:https://www.gizmodo.jp/2014/08/50_20.html
本作は当時開発されてばかりだった「ステディカム」を用いて撮影されており、カメラ技術者ギャレット・ブラウンが開発したものだ。これはカメラにアームをつけることで振動を抑えることができる優れものであり、スムーズなカメラワークが可能な装置。これによりダニーが三輪車に乗ってホテルを駆け回るシーンや巨大迷路のシーンも滑らかなカメラ移動が実現されていることがわかる。
そしてキューブリック監督がよく好むシンメトリー構図が使われており、画面の奥行きとシンメトリーを考え抜かれたシーンがまさに双子の少女のシーンだった。そしてカーペット模様も左右対称で左右にドアが設置されている。少女とカーペット、そしてドアまでもがシンメトリーになっているせいで返って非現実観を醸し出している。
そしてキューブリックはあえてあるはずのない通路を描いており、部屋と部屋との位置関係が場面によって変わっている。実際、トランス一家が初めて訪れたシーンとウェンディが”あっち側”の世界を知った後では明らかに変わっている。それもキューブリックがあえてホテルの間取りを分かりにくくすることでホテル全体を迷路のように見せているのだろう。そのため、シンメトリー構図とホテル全体の迷路により、より一層恐怖心を呼び起こされるのではないだろうか…。
犬男とタキシード紳士
出典:シャイニングより引用
このホモシーンはかなり印象的だ。映画版ではウェンディが目撃するのだが、原作ではダニーの前に登場し吠えたり脅かしたりする。これはダニーを演じたダニー・ロイドが子どもであり、映画『シャイニング』がホラー映画だと知られないように考慮していたという背景がある。特に子どもということでトラウマにならないように細心の注意が払われていたのだろう。そのため、ダニーが登場するシーンでは2人の少女が登場する以外ホラー要素はない。
映画『シャイニング』のラストの意味とは?
これはキューブリックが実際にインタビューで述べており、「最後の舞踏会の写真はジャックの生まれ変わりを示唆している」とネタバレコメントを暴露している。
これが意味する理由は、ジャックが生まれ変わりとしてホテルの管理人をしているということだろう。そもそもグレディがジャックであると考えると、バーのトイレでジャックとグレディが鏡の前で会話をするシーンが納得してしまう。
特にジャックはグレディの生まれ変わりで、双子の妹と妻を惨殺したのもジャックなのではないだろうか?そして実際に支配人のアルマンが面接時に、一家惨殺事件があったことをジャックに知らせるのだが加害者である管理人の名前をチャールズ・グレディと語っている。その後ジャックと支配人が会話するシーンがあるのだが、そこでジャックに「あなたこそ、このホテルの管理人です。ずっと昔から」と語っており、輪廻転生していることがわかる。
今回は以上です。
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